Vol.3437三島由紀夫の小説に描かれた小金井の景色

多磨霊園には多くの著名人の方が眠られていますが、三島由紀夫先生のお墓もあります。あまり知られていませんが、昭和28年にオール読物4月号に掲載された、伝奇小説と言われている「雛の宿」に小金井の描写が出てきます。

三島先生は本名平岡公威（ひらおかきみたけ）なので墓碑は平岡家になっています。今でもファンの方が多く訪れ花が供えられています。

墓誌中央には筆名三島由紀夫と書かれています。

雛の宿には『武蔵小金井駅を下りると、町はわずかで、すぐ暗い野道の入った。』ちくま文庫三島由紀夫集雛の宿29頁5行目。『道の両側には、武蔵野の名残の高い欅並木があったり、それが尽きると、耕された柔らかい黒い土の起伏ばかりが何処までもつづいている畑になったりした。』 29頁13行目と描写されていますが微妙に違っています。『やがて高い生垣のかたわらを出て、僕はしずかな水音を聞いた。「ここはどこなの？」と僕は訪ねた。「堤よ。その並木は有名な桜並木よ」』 30頁15行目。　確かに聖霊修道院のところは高い生け垣になっています。画像は昭和29年地図より。

高い生け垣らしい場所は雛の宿発表の昭和28年頃は聖霊修道院しか有りません。

修道院の前、歩道の拡幅工事以前はこの様な状態でした。

『キヨ子は道を左折し、又右折した。墓や竹藪竹藪のかたわらをとおるとき』 30頁13行目。　実際には墓場は右折して左折したところにあります。

『なるほど、墨でどっぷりと描いたような豊かな古木の桜が、まだ枯枝のまま、道より半米ほど高い堤の上に並んでいた。』 31頁2行目　道より半米高い堤はそのままの描写です。

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小金井町時代の玉川上水五日市街道側です。確かに古木の桜が、まだ枯枝のまま有ります。

『どこまで行っても、例の生垣も、水音のきこえる堤へ出る辻も見つからなかった。一軒の薬屋兼雑貨屋兼煙草屋といった鄙びた店がまだあいていたので』 39頁8行目　昭和7年の小金井駅付近略図です。薬局はありますが、略図と描写は違っています。

昭和28年当時本町2丁目の交差点には現在も続く薬局がありました。当時薬局は雑貨、煙草を扱う店も多く、ティッシュペーパーはまだ無く、ちりがみ・落とし紙などのばら売りも行っていました。

令和6年2月29日発行の多磨のあゆみの特集は多磨の作家と人間関係です。この中に「現代作家が描く多磨の風景」～事実と虚構の間～の中で虚構の風景として松本清張の小説「陰の地帯」で国立の特長と異なる記述がある。とその部分を紹介しています。雛の宿も伝奇小説という事もあり、ある程度現実を虚構で変えているようです。小金井が舞台の作品でも武蔵野夫人や野川、我らが少女Aの「事実」と「虚構」の差は作品と作者の考え方で異なってきます。これも楽しみ方の一つです。

三島先生の作品では、別に一部では鏡子の部屋の舞台となったと言われている建物が江戸東京たてもの園にデ・ラランデ邸として保存されています。建築史家藤森照信著「建築探偵の冒険東京編」で「西洋館は国電3分鏡子の家」として三島由紀夫鏡子の家となったことが三島琴のインタビューとして記述されています。三島琴氏は移築前お住まいだったカルピスの三島海雲氏の奥様です。写真は夜間特別開園時に撮影した画像です。