Vol 3078 近藤勇の書～多摩英雄の詩

幕末の新選組局長近藤勇（以下近藤）が、小金井市やその周辺の市町村（調布市・三鷹市・小平市）にゆかりのあることを皆さんご存知でしょうか？

【写真の油絵】東京都町田市「小島資料館」所蔵（明治18年・1885年作）。

　小金井市と調布市の境にある野水（旧上石原村）にその生家跡があり、武士である近藤家に養子に行く前の宮川家農民時代には、小金井市の前原にある曹洞宗千手院の寺子屋へ読み書きを習いに通っていたとも言われています。また近藤の天然理心流の系統を引く人が、千手院で剣道の道場を開いていた、という伝えもあると小金井市誌に記載があります。近藤の実母はお隣小平市出身であり、近藤のお墓はお隣の三鷹市の曹洞宗龍源寺にあります。

　その近藤ですが非常に立派な優れた書を残しています。写真は広島市の頼山陽記念文化財団が個人から寄託を受けて保管している七言絶句の漢詩を揮毫した書になります。難解ですが、以下書き下し文です。＊【書の写真】広島県広島市「頼山陽記念文化財団」から提供

只だ応（まさ）に迹（あと）を晦（くら）まして垣東に寓すべし。

喋喋（ちょうちょう）として何ぞ世俗に随いて同じからんや。

果たして識る英雄の心上の事。

英雄にあらざる処　是れ英雄。

　　　　　有感作　　　剣客士　　　近藤書

　漢詩内容は、ただ尊王攘夷を声高に唱えて悲憤慷慨して自分を英雄視する他の者とは自分は違う。自分は世間から（陶淵明のように）隠れて世間といたずらに同調せずに自分を英雄などと思わない人間が真の英雄であるという真の英雄の心事を知っている、と志高いものです。

　近藤が、江戸・多摩から京都へ上洛して間もない頃、壬生浪士組の運営のため商人から借金する際にお礼として揮毫したものとも言われています。

　書は、右肩上がりに非常に勢いよく書かれた草書体であり、全ての文字が一筆で連続して書かれています。これは後程紹介する頼山陽の七絶漢詩を書いた草書体書に似ていますが、まったく真似たものではなく、勢いよく自分流に書いています。どこか力を抜いて楽しみながら書いているようにも見えます。20代後半あるいは30代前半でこのような草書体の卓越した書を書いたことが驚きでもあり、近藤の人並みならぬ努力と教養の高さを伺い知ることが出来ます。

　この書を近藤から貰った京都商人は、近藤の凄さに恐れ入り、「こんな人京都・大坂にはおらはりません！」と度肝を抜かれたのではないか（笑）と推測されます。

　これが近藤が影響を受けたと思われる江戸時代文化・文政の歴史家・儒家である頼山陽「修史偶題」の書になります。近藤は頼山陽に心酔し、影響を受けたことが指摘されています。＊【書の写真】広島県広島市「頼山陽記念文化財団」から提供

　江戸試衛場時代に頼山陽の「日本外史」等を読み感動し、その頃から頼山陽の書の法帖で臨書に励んでいたのかもしれません。以下に現在広島県広島市にある頼山陽史跡資料館において頼山陽の書等の研究をなされている主任学芸員花本哲志（さとし）氏の見解を載せさせて頂きます。

　今後も小金井・多摩にゆかりのある近藤の書や漢詩等の研究を重ね、近藤の学術・学問・教養の高さにスポットを当てて紹介していきたいと思います。近藤勇の書や手紙などお持ちの方あるいは新発見された方は、小金井市観光まちおこし協会まろん通信レポーター山紫水明までメールにて情報提供頂けると幸甚です（まろん通信レポーター　山紫水明）。

【主任学芸員　花本哲志氏のコメント】

　近藤勇と頼山陽の関係ですが、佐藤彦五郎新選組資料館が「近藤勇が彦五郎に持参した頼山陽の書」を収蔵しています。頼山陽の書に魅かれ、これを買い求めて贈ったことは間違いないと思われます。近藤の遺墨は数が少ないのですが、東京国立博物館所蔵の作品は全体的に線が太く、重厚感があります。

　当館寄託作品は、恐らく上洛して間もない頃ではないかと思われますが、全体的に細身です。横画の右上がりや抑揚のある筆勢には山陽の影響が読み取れるのではないかと考えています。（平成25年の「頼山陽と幕末の群像」）展覧会では、チラシ裏面に載せている「外史脱稿戯作」と並べて展示しましたが、比較して見るとその思いを強くします。＊2023年8月9日レポーターへのメール解説にて。

【頼山陽史跡資料館　URL】

https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/raisanyou/

【小島資料館　URL】

https://www.kojishir.com/

以上

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